- 後半 -

【取材・文:今秀生】

——8マンとサイボーグ戦士たちとの違いも描かれていますね。

早瀬

お互いの理念や思想に非常に近しいものがあっても立場は違うんです。平井先生は当初8マンをサイボーグにしたかったと言ってましたが実際はいわゆるスーパーロボット。009は人間の臓器を持ち、生身が残っているからあくまで人間が機械化された存在。その両者の違いを今回は作品の中で生かすことができたんじゃないでしょうか。

七月

8マンは完全に電子頭脳になっているから、数十年前の記憶も数秒前の記憶と同じようにすぐに鮮明に思い出せる。これを思いついたシーンはうまくいったと思います。

——その対比としてAIも登場します。

七月

あのAIたちはあまりにも高度すぎて、自分がAIだと自覚できないんですよ。

早瀬

でもAIなので、その思想や理念までも文字通りプログラムされた人形でしかない。亡霊なんです。

——結果、ほとんど人間が出てこない話になりましたね。

七月

ギルモア博士とデーモン博士ぐらいですね。私は平井先生が生み出した、科学者にして天才スパイ団のリーダーというデーモン博士が大好きなんですよ。

早瀬

デーモン博士は、やっぱりなんと言ってもそのネーミングが素晴らしいですよね。名は体を表すキャラクターで。

七月

他にもドクターユーレイとかいました(笑)。昔、平井先生に「谷方位って珍しい名前ですね」って聞いたら、「『ダニー・ボーイ』って歌があるんだよ」って。予想外のお答えでした(笑)。

——実作業はどんな感じで進行したんですか?

早瀬

前作の「幻魔大戦Rebirth」の時からそうなんですけども、七月さんからシナリオをいただいて、私がそれをネームにして、それから編集部を交えた形で3者会談するという、従来の漫画制作からするとちょっと珍しい形かもしれません。

七月

シナリオをネームにする段階で早瀬さんのアイデアがたくさん入ってます。例えば
第1話のラストで私がシナリオで書いたのは宇宙の人工衛星でしたけど、

早瀬

それを私が魔神像にしちゃいました。

七月

宇宙からのスパイ衛星が見ているってしたんですけど、もう早瀬さんが魔神像を出して(笑)。

早瀬

第一回ですし、読者を驚かせたくてハッタリをきかせて…(笑)。

七月

それで方向性が定まりました(笑)。

——話し合いで魔神像を出すと決めたわけでじゃなく?

七月

いや、もう早瀬さんがそうしちゃった(笑)

——では、それを受けて七月さんが次どうしていこうかってなるわけですね。

七月

そうですね。じゃあ新型魔神像アレス2っていう設定にして、宇宙と地球を自在に往来できるってのはどうですか?と。

早瀬

七月さんは平井イズムを継承しているので、非常にクールに、理詰めに考えられるわけですよ。私は石森イズムを継承しているので、非常にリリカルで大胆なことをする(笑)。変なことやってるのは私で、真面目なことやってるのが七月さん。

——早瀬さんとしては七月さんがいるから安心してるんですね(笑)。

早瀬

七月さんがしっかりした話のレールを敷いてくれてるので、その上で私がちょっと暴れたりとか、たまには脱線させるようなこともできるんです。

七月

最終的にはちゃんとすり合わせてますよ(笑)。

——早瀬さんは桑田先生とお会いしてるんですか?

早瀬

叶いませんでした。連載企画時は、桑田先生まだご存命だったので企画OKもいただいたんですが、掲載号が出る直前にお亡くなりになってしまいまして…。完成した雑誌はご覧いただけませんでしたね。

七月

桑田先生に企画の許可をいただけたというのはありがたいですけど、出来た作品をぜひ読んで頂きたかったですよね…。

早瀬

桑田先生に許可をお願いする時に会いに行きたいと思ったんですが、コロナなどの状況があって行けませんでした。憧れの先生でしたから、出来上がった単行本を持ってお会いしに行きたかったですね。

——七月さんは桑田先生にお会いされてるんですよね?

七月

10数年前にご挨拶させていただいた事あります。『マガジンZ』編集部のセッティングで、「8マンインフィニティー」をスタートする時のキックオフですね。平井先生と桑田先生が並んで座られていたんですよ。平井先生と桑田先生も何十年かぶりにお会いされたみたいでしたね。新しい企画で8マンがよみがえることを嬉しがってもらえましたね。
お二方とも80年代にスピリチュアルな方向に関心を持たれたじゃないですか。「幻魔大戦」もそうだし、桑田先生も般若心経に向かわれて。桑田先生が「人間が罪を犯したからってね、天罰を下すような神様っていうのはありゃいませんな」って言ったら、平井先生が「 そうですそうです。そんな神は存在しないんですよ」って返されたりしているのを目の前で見てました。スピリチュアルなところで色々と試行錯誤してきたお二人には、共通した部分も多かったような気がしますね。

早瀬

凄い!羨ましいですね。

七月

いや、貴重な経験でした。

——この作品は弟子同士のコラボレーションという側面もありますね。

早瀬

弟子と言っていいポジションかわかりませんが、まあ、背中を見て歩いてきたということでは、確かにそうですね。

七月

私もよく平井先生の弟子では? と言われることがありますが、特に弟子ではありません。ただものすごく影響を受けて育った人間です。

早瀬

以前、「幻魔大戦」をNHKがアニメ化するという企画が立ち上がった時に平井先生にお会いしたんですけども、その時に色々「幻魔大戦」に関して質問をしたんですけども、平井先生がほとんど答えてくださらなくて、「もう忘れました」「後のことは全部この七月鏡一に任せているから」って言われたんですよ。あ、任せてるんだと(笑)。だから「幻魔大戦Rebirth」をやろうとした時にまず七月さんに連絡をしたわけです。

七月

恐ろしいこと言うな、平井先生(笑)。一定の信頼を得ていたのかなと思うと嬉しいですけど、同時にすごいプレッシャーですね。

——では今回の企画、話を聞いた時にもプレッシャーが?

七月

嬉しかったんですけど、やはり怖かったですよ。えっと、今回の話で東八郎が昔の探偵事務所に行くシーンがあるんですよね。最初私が書いたシナリオではガランとした廃墟ビルだったんですけど早瀬さんが当時のそのままのオフィスが残ってるっていう風にコンテで返してきたんです。

早瀬

それは、原作の「8マン」のラストで東八郎がいなくなった後、さち子さんが探偵事務所をそのままにしておくんじゃないかなと思ったんです。そうあってほしいという願望ですよね。

七月

そういうアンサーが来たから、そこからさち子さんという、もう1つドラマが生まれました。さち子さんはどうしているんだろう? 東八郎自身はさち子さんを今も思っているんだろうか? そんなことを考えなきゃいけなくなって、その結果、この作品のラストシーンが決まりました。そういう早瀬さんとのやりとりのおかげで、平井先生が半世紀ぐらい前に出した宿題に対する、私なりの答えが出せたかなと思いました。

——二大ヒーローを並べるにあたってやっちゃいけない事はありましたか?

早瀬

基本的に「敵をやっつけました。バンザーイ」はやっちゃいけないことです。

——それはそういう打ち合わせを?

七月

してませんけど、それは私もやりたくないことのひとつです。何がいいのか悪いのか刷り込まれてる世代なんで、大枠の打ち合わせは必要なかったです。

——共通認識で問題なかったと。

早瀬

そうですね。でも、「ここは七月さんが考えているだろう」というところを実は私が考えていたりとかもするわけですよ。「幻魔大戦」の時に当時読者として読んでて、お姉さんのくだりって私は石森先生のアイデアだろうと思ってたんですよね。主人公がいわゆるシスコンという設定だった。でも、実はあれは石森先生が考えた部分ではなくて、平井先生が石森先生のことを知っていて盛り込んだことだったりするんですよね。 呼吸が全部合うわけではなくて、違う意見はそれぞれ持っていて、どうすり合わせていき、どういう回答を導いていくか、そこが大事なんだと思います。

七月

8マンに寄ったマニアックなネタのいくつかは私じゃなくて早瀬さんが入れてる場合があります。マニアックすぎて私がためらったのに入れてきやがるんです、早瀬さんが(笑)。もちろんそれぞれの細かい設定とか知らなくても楽しめるはずです。バランスも含めて、すごくうまくいったコラボレーションになったと思ってます。