プロフィール  :

岡崎つぐお

1960年生まれ。1980年に『2年A組星子先生』でデビュー。
代表作に『ただいま授業中!』『ジャスティ』『ラグナロック・ガイ』など。
秋田書店『月刊 チャンピオン RED』にて『サイボーグ009 BEGOOPARTS DELETE』を連載中。

この企画をやることになったいきさつというのは?

岡崎

もともとは私が「サイボーグ009」の企画を構想していたんです。ただ、私も009ファンとして、いかにリメイクが難しいかはわかっていたので、当初から、やるならリメイクはしたくないと思っていました。本編で描かれたことを視点を変えて見せるか、本編の裏側を描くか……石ノ森先生がお描きになった作品世界そのままで、自分がマンガにしていいんだったら、と考えていたんです。

実は最初のアイデアは、「サイボーグ009」ではなく「サイボーグ003」というタイトルでいこう、というものでした。原作にはいろんなエピソードがあります。それをすべて003の観点で、009たちの活躍を描くのはどうかなと。

その頃、ツイッターで009の落書きを描いてみたりして、ファンの方どういう反応をされるのかな…って様子伺ってたんですけど(笑)。結構反応がよかったんです。

しばらくして、ツイッターで私の挙動をご覧になっていた石森プロの早瀬マサトさんが声をかけてくれて。そのときにまず、「リメイクをやる気はない」「本編をいじることになると思うが、石ノ森先生の名前に傷がつくような、迷惑がかかることはしたくない」「009を使って全く新しいものをドカンとやるような考えもない」と、お伝えしました。

それで、構想していた「サイボーグ003」のネームを早瀬さんに見てもらったら、「いいんだけど、もったいない」と(笑)。たぶん「サイボーグ009」を岡崎さんが描く機会はそんなにないと思うから、やるならやっぱり「サイボーグ009」のタイトルでやりませんか、と言われました。

どうしようかと迷いましたけれども。誕生編からもう一回始めるようなことは、絶対できないという思いがありましたし。それで悩んだ挙句、未完のまま終わっている天使編の続編だったら描きたい…と、今度はその方向で話を練っていきました。

そこから具体的に企画が進むまでには、ちょっと時間がかかったのですが、あるとき早瀬さんから「秋田書店の『チャンピオンRED』はどうですか?」という連絡があったんです。その担当さんが非常に石ノ森作品のファンで、若いけれども「サイボーグ009」に対する思い入れが強いと。「こういう担当さんに巡り会えることはめったにない!」、と強く勧められまして(笑)。

まずは、160枚くらい描き溜めていたネームを企画案として、担当となった小林さんにお見せしました。そうしたら、「これはコアすぎる」と。一般の読者にはちょっと難しいと言われまして…(苦笑)。正直、まぁそうだろうな、と思いました。やっぱり難しいかと(笑)。それで気持ちが折れかけたんですが、そこからの小林さんの熱意がすごかったんですよ。「何とか009を形にしたい」って。色々打ち合わせしていくと、ミュートス・サイボーグ編が好きで、「あれをもう一回見たい」と言うんです。でもミュートス・サイボーグ編は非常に難しい終わり方をしている話なので、その続きと言われても、イメージが湧かなかったんです。実は最初は、描きためたネームが通らないんだったら、「もう私の出番じゃないな、他の方が執筆すべきだろう」と身を引かせていただくつもりになっていました。ところが小林さんは、結構私の絵を気に入ってくださっていたのか、熱心に引きとめてくれるんです。「この絵で009が見たい」と言っていただけたのが、今回の連載を決断する、最初のきっかけだったと思います。

『チャンピオンRED』で連載されることになった経緯をお伺いできますか。

小林

実はずいぶん前に石森プロさんに「サイボーグ009」のスピンオフをやらせてほしい、とお願いしたことがあるんです。そのときは、色々とタイミングが合わず実現出来なくて、残念だなぁと思っていました。私は「チャンピオンRED」で松本(零士)先生の「キャプテンハーロック」「銀河鉄道999」のスピンオフを担当していまして、松本先生のイベントに早瀬先生がゲストに出られていて、直接お話する機会があったんです。その時に「自分は松本先生の作品も当然好きだけれど、石ノ森先生も大好きです」と話していました(笑)。「サイボーグ009」も子どもの頃ずっと読んでいたし、「黒い風」や「龍神沼」なども読んでいて本当に好きだったので。いつか何かご一緒できたら…なんて話をしていたものですから、この企画で声をかけていただけたときには「今回こそ実現できるんじゃないか!?」と興奮しました。私にとって009は悲願の一つでしたから、このチャンスは絶対逃せない。それに岡崎先生の絵も見せていただいたら、素晴らしいんですよ。この絵で、新しい009…まだ読んだことのない009が見られたら素敵じゃないかと思いました。

岡崎先生の中には「こういうものを描きたい」という強い思いがあったので、それもなるべく汲み取りたいと思いつつも、やはり雑誌なので、ある程度読者に合わせていただかなければいけない部分もあり、色々とご相談させていただきながらこういう形で実現に至った、というわけです。

小林さんからのミュートス・サイボーグ編という提案を岡崎さんが受ける気になったのはなぜですか?

岡崎

先ほどお話しましたように、元々考えていた自分なりの方向性でいけないのであれば、私の出番ではないと思っていたんですが。小林さんがとにかく熱心に、私の絵で009を見たいと言ってくれたものですから、じゃあ最初の構想とは違ってしまうけれども、いま私の絵でファンが喜んでくれるものを何か工夫できるならやってみようかな、と思えたんです。そこから、ミュートス・サイボーグ編の続きに位置づくもので考えましょう、ということで今の企画が立ち上がった感じです。

確かに、ミュートス・サイボーグ編は確かにはっきりとした勝敗が着く前に噴火で結末を迎えているので続きを考える余地が多いですね。

岡崎

そうですね。それにミュートス・サイボーグ編は珠玉のエピソードがいくつも散りばめられているので、そういう部分一つ一つを丁寧に拾って、未来の段階で結末をつけてあげるのはいいんじゃないかなと考えました。考え出した当初は、もっともっと小さい話のつもりだったんですよ。読み切りとはいわないまでも、単行本1冊分位のコンパクトな話にしようと思って始めたんですけどね、もうそうはいかなくなってます(笑)。

岡崎先生がリメイクではなく続きの物語を選択したのはどういった理由なんでしょうか?

岡崎

そうですね。それにミュートス・サイボーグ編は珠玉のエピソードがいくつも散りばめられているので、そういう部分一つ一つを丁寧に拾って、未来の段階で結末をつけてあげるのはいいんじゃないかなと考えました。考え出した当初は、もっともっと小さい話のつもりだったんですよ。読み切

うーん…リメイクでいいものをつくるのは難しいと思ったからです。もしリメイクをやってしまったら、自分が子供のころから築き上げてきた009のイメージを瓦解させてしまうんじゃないかと。石ノ森先生が作ってくださったイメージが頭の中で固まってますから、それをいじるのは自分にとって…勇気とかって問題じゃなくて、冒涜になる。だから、あくまでオリジナルはオリジナルのままであって、もし私が描けるなら、その「続き」しかないんじゃないかと思っていました。それだけ自分自身、思い入れが強い作品ということです。

あとネタバラシをしてしまいますと…まぁこれは公言しているのですが、「サイボーグ009」の島村ジョーと「幻魔大戦」の東 丈をかけあわせてつくったのが、私のジャスティというキャラクターだったので…

りとはいわないまでも、単行本1冊分位のコンパクトな話にしようと思って始めたんですけどね、もうそうはいかなくなってます(笑)。

(ジャスティの)ジェルナは、003と東ミチ子の合体ですよね?

岡崎

そうです!

それは、当時読んでいて、そう思いました。

岡崎

それは嬉しいですね(笑)。

「ジャスティ」の後に描かれた「ラグナロック・ガイ」も、009のエッダ編に通じる、北欧神話を題材にしたキャラクターが出てきますし、石ノ森章太郎が大好きなんだな、というのは伝わっていました。そういったことを考えると、009ファンからしたら岡崎先生がリメイクを描かれていたとしても納得される…というか、面白く読まれたのではないかという気もしますが。

岡崎

どうでしょうかねえ。

ともかく、それほど岡崎先生の中では石ノ森作品は特別ということでしょうか。

岡崎

そうですね。それがなければ、私はマンガ家になっていなかったと思いますから。

石ノ森先生との出会いの作品は何ですか?

岡崎

一番最初は…やっぱり「サイボーグ009」かな?

まだ小学校に上がる前、近所のお兄ちゃんたちが買ってくる「少年キング」とか「週刊少年マガジン」を読ませてもらって、字を覚えていた感じだったんですが、そのとき、最初に記憶に残った「恰好いいヒーロー」のイメージが、島村ジョーでした。

ほかにもヒーローはいっぱいいたんですよ。ロボットものが全盛で「鉄人28号」など大好きだったんですが、《生身の人間のヒーロー》という意味で憧れたのは、島村ジョーが最初だったんですね。だからもう、最初に自分の頭の中にすりこまれてしまったのではないかと思います。そのときは、まさかマンガ家になろうなんて思っていませんでしたが。ずっとプロ野球選手になりたくて少年野球からやってきていたので、マンガは趣味としてやっていたくらいで(笑)。

じゃあ、「サイボーグ009」を読んで石ノ森章太郎という名前も覚えたんですね?

岡崎

そうですね。あと、そうだ、親に劇場版アニメ(1966年)に連れて行ってもらったんです。そこで初めて映像で009を観て「あっ恰好いいな」って。その後しばらくして、また少し違う絵柄でモノクロのテレビアニメが放送され始めましたね。主題歌もよくて。その頃にはすっかり009というイメージが、自分の中で出来上がった感じでした。

その後小学校に入って、今度はコミックスで読み直すことになるんです。それからある時期までハマるんですが、その後は野球に夢中で、あまりマンガ自体描いていない時期もあって、少しずつ頭の中から島村ジョーという存在が薄れていきました。

でも、しばらくして野球に見切りをつけ、何やろうかなと考えた時、またマンガを描こうと思って。その時よみがえってきたのが「サイボーグ009」だったんです。そうだ、ああいうヒーローを描きたいなって。

だから度々の邂逅があったんですね、009とは。何も知らず見ていた幼い頃、アニメに触れた頃、それを受けてもう一度原作を見直すチャンスがあった小学校時代、そして本当にマンガ家になろうと思って原点を振り返ったら「あ、009だな」と気づいたとき。それで今に至る感じですかね。

絵の影響も受けていますか?

岡崎

あ、それはもう。「恰好いい絵を描く!」となったら島村ジョー、ってくらい。もう手癖で覚えちゃっているくらいです。また、描きやすいんですよ(笑)。ジョーというキャラクターは、一回覚えちゃうとすごくバランスをとりやすくて。だから何か描くときは、落書きするときでも、なんとなくジョーを描いていました。ただ逆に、石ノ森先生の模写はしませんでしたね。 いちばん石ノ森作品の絵に惹かれていたのは、70年代前半頃でしょうか。あの手の恰好いい絵に飢えていた時期だったのかもしれません。時代的には、それから数年してニューウェイブというのが始まる頃で。大友克洋先生とかが出てきて、マンガ家も結構そっちの傾向に流れていくんだけれど。私はどうしても幼いころに刷り込まれた「格好良さ」というものを変えられなかった。何十年も自分の頭にすみついた格好良さがあって、その格好良さの…まぁものさしのようなものを変えることがなかったなぁと。

今回の作品でなにか作業したり、描いたりしたとき石ノ森先生の目を意識したりすることあります?

岡崎

うーん…とくにそういうのはないんですけど…。ただ今回の企画に関しては、小林さんからある程度の無茶ぶりがあるんですよ(笑)。またそれに加担するように早瀬さんからは、「石ノ森章太郎という作家は、そういう風に課題を出されたら簡単にOKして、逆にもっと驚くようなものを持ってくる!」なんて言われたりするんで…(笑)。 小林さんから「こういう要素を入れてほしい」とリクエストされて、応えなきゃってなったときに、ネームに没頭していると、石ノ森先生に「やれるものならやってごらん」と言われているような気はします。

小林さんの無茶ぶりって、たとえばどういうものなんですか。

小林

うーんどうなんでしょう…そんなに私は、無茶を言っているつもりないんですが(笑)

岡崎

えー!(笑) だってそもそも今回出てくる女の子のリコだって、最初こんなメインキャラクターじゃなかったじゃないですか。

小林

ああ、まあそうでしたね…(笑)。

岡崎

当初はリコのお母さんがヒロインで、割とこじんまりまとめるつもりでしたからね。第1話の009の登場シーンも、もっと抑えめだったんです。「いや、ここはもっと派手にいってください!」と言われて。アポロンの登場も予定より早くなりましたし。そういうリクエストをされるから、うんうん唸ってやってみるんですけれども、結局その後、出来上がった原稿を見ると、あぁ小林さんが言っていたのはこういうことだったのかなと思うこともよくあります。こういう演出にすることで、この作品で009に初めて触れる人にも、読んでもらいやすくなるのかなとか。

小林

やっぱり、岡崎先生の作られる画面がほんとうに素敵なので、こういうシーンがみたいなっていう気持ちが出てきちゃうんですよね。ジョー恰好いいな、このシーンだったらこう活躍してほしいな、うーん、そうなるとやっぱり敵もいてほしい…アポロンが出てこないとそりゃ盛り上がらないよな、とか。私は週刊誌で編集を長くやっていたせいか、どちらかというとライブ感みたいなものを大事にしたくなってしまうんです。 あと個人的には、初期の「サイボーグ009」が大好きなんです。少年マンガの王道で、バトルアクションとしての「サイボーグ009」が原体験。だからバトルアクションでエンタテインメント性が強い「009」が見たいな、と考えていて。また岡崎先生がアクションを描けるので…そりゃ見たいですよね、ファンとして(笑)。

じゃあ、岡崎先生としては、元々の石ノ森先生の世界観もあるし、若い担当さんからいろんなリクエストもあるし、早瀬さんからプレッシャーもあるしでこれまでにないスタイルの仕事になってしまったんですね。

岡崎

そうですね、このスタイルは、生まれて初めてですね。ただ描く上では、自分の中で、制約は変わらずあるので。それを壊しちゃうと自分の負けなので。石ノ森イズムは絶対に壊さないで描きぬくぞっていう覚悟といいますか…(笑)。もちろん嫌な仕事ではありませんが、まだ「楽しいな~!」って言えるところまでは辿りついていないですね。苦しむことの方が多いような気がします。 ただSNSなどを通じて知る限り、原作ファンの方からは、割と期待を外れていない、という反応が多いようなので…それはちょっとうれしいかな。自分がギリギリ守ろうと思っている石ノ森イズムのようなものが、ファンの方にも伝わっているのかなって。

この記事を読んだ方は、毎月のライブ感が楽しめるのではないでしょうか。「あ、今月もきっといろんなことが話し合われてこうなったのかな」とか。

岡崎

まぁ、そうして読んでいただけたらうれしいですね。まずは読んでいただけることが何より幸せなので。
取材・構成 : 今 秀生