「夜は千の目をもっている 第2話」

自分は昭和41年生まれ。当然戦争を知らない世代です。ある時、ふと自分が生まれた年は、戦後20年しか経っていない事に改めて気付き、驚いたことがあります。太平洋戦争は随分と昔のような気がしていましたが、然程遠くない過去だったんだと。そう言えば、僕の子供の頃、池袋などには戦争で障害を持った元兵士の方が、物乞いをしていました。今では全く、そんな光景は見かけなくなりましたね。

「夜は千の目をもっている」を描いた時は、きっと昭和30年代の前半だったでしょう。終戦してから、ほんの十数年。きっと作者は、つい最近のような感覚であったと思われます。

実際に作品にも、“戦争”が色濃く反映されています。主人公が家庭教師で訪れる家の主が、戦時中は優秀な狙撃手で、彼を訪ねてくる人物は、その戦友。今では考えられない設定です。でも、この時代背景が、より一層物語をドラマチックにしてくれています。

僕は韓国映画が好きでよく鑑賞致しますが、北との緊張関係は常に戦争と隣あわせの環境で、日本では絶対に創れない題材の作品が多いのです。日常が既にドラマチックなので、創作される物語も必然と劇的なものになります。

この「夜は千の目をもっている」という作品も、同じことが言えるでしょう。現代社会だったら、一般職の父親が、企業間の利益の為に狙撃を依頼されるなんてことを描いたら、リアリティがなく、鼻で笑われるでしょう。もしかしたら、現代の若い読者がこの作品を読んでも受け入れられるかどうか、まるでサイエンスフィクションのように扱うかもしれません。もちろん戦争を知らない僕ですが、子供の頃に見た戦争の後遺症を抱えて物乞いをする男性たちを知っているだけでも、受け止める要因に成りえるのだと思うのです。

世の中に発表された作品郡は、ドキュメント作品以外は全て創作物語なわけで、それならばドラマチックな方がいいに決まっています。日常にまだまだ劇的なドラマが散らばっていた時代に描いた作品。

作者が狙って描いた、空白の白のタッチと同様に、その時代を知らない我々も、イマジネーションを掻き立てられる短編作品を、よくぞ産んでくれたと、心からそう感謝するのです。

 

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