「リュウの道 第2回」

「ムードが大事なんだ」


これは、映画好きの石森が、好みの作品を語る時に、よく使う言葉。例えば、ホラー映画という括りで言えば、石森は「エクソシスト」を賞賛します。それは、ムードがあるから。確かに映画導入部の、イラク北部の遺跡発掘現場で神父が、悪魔の像を発見する場面から醸し出すムードは、観ていた自分の心を鷲掴みにするほど強烈なものでした。そのムードがベースにあるため、恐怖がより助長していきます。

インディジョーンズシリーズは、石森は必ず第一作目の「レイダース失われたアーク」を賞賛します。それも、ムードがあるから。どの作品も素晴らしく、若き日の自分などは、ジェットコースターのように畳みかける二作目の「インディジョーンズ」の方が心を奪われますが、往年の冒険活劇のエッセンスを詰め込んで、徹底してそのムードに拘り、十戒の破片を納めた聖櫃が開かれるクライマックスの演出などは、その神秘的なムードに釘付けになるほど。

石森が褒めたたえる意味が、近年三作品を観返してみると、よく分かりました。“ムード”と一言で言いますが、要するにその作品の世界観であったり、そこから醸し出す空気感や雰囲気。萬画や小説も、読んでいる時の肌触りのような感覚を指すものだと、僕は思います。

リュウの道』も恐らく石森という作家は、徹底してムードに拘って創った作品に違いありません。乾いたような、時に湿る、核戦争後の原始に戻った地球、その世界観に、正直僕は興奮して鳥肌が立ったのを覚えています。この作品を知らないマンガ好きの方に分かりやすい例えをしますと、後に発表された梅図かずお先生の『漂流教室』に触れた時、それに近い肌触りを覚えました。最近では、諫山創先生の『進撃の巨人』も、そのエグさといい、独特な世界観は近いものを感じたのです。

かなり異論はあるかと思いますが(笑)、『リュウの道』→『漂流教室』→『進撃の巨人』と勝手に引いたライン。何が一番言いたかったのかと申しますと、そのSF叙事詩という括りの中で、『リュウの道』は紛れもなくパイオニアだということです。

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