「トキワ荘のチャルメラ 後編」

前回は、石森特性ラーメンの思い出をお話ししたら止まらなくなり、ページ数全て使ってしまいました(笑)前回お伝えした、インスタントラーメンのブレンド使用の作り方が、「トキワ荘のチャルメラ」という短編作品にも載せてあります。

屋台のチャルメラが聞こえると、トキワ荘にいた仲間たち全員が雪崩れ込むように、屋台に向かい、ラーメンをすする。この作品のオープニングを読んでいるだけでも美味しそうで、ラーメンが食べたくなるのは僕だけじゃないと思います。屋台の雰囲気と、何より仲間たちとで食べるラーメンだから、さぞ当時も美味しく感じたでしょうね。

この作品は、単にトキワ荘時代のラーメン話で終わらないところが、深みを感じて僕は好きなのですが、インスタントラーメンの出現も描き、その時代を反映させているのです。その時の衝撃を、作品内の役は仮名ですが、赤塚不二夫先生との会話で伝えています。

科学時代の新しい食品。宇宙食と一緒。生活のテンポがどんどんスピードアップされている時代の食品。きっとあらゆるものがインスタントの時代が来る!そんな会話の後、週刊マンガ誌の創刊に仕事の依頼が届きます。しかし作者は、1週間に1本描くとこは不可能だと口にします。インスタント食品の時代に、マンガまでもインスタント化されることに驚くのです。原稿を見せても、「テーマが難し過ぎる」「ハリキリ過ぎじゃないですか」「マンガは芸術じゃないんだから」と断られます。インスタントラーメンと萬画を比喩しながら、その時代の世相をも皮肉る。そのうえで、本人の葛藤も描いています。何種類ものインスタントラーメンを買い、家でやってくれたようにブレンドして、トキワ荘の仲間たちにラーメンを振る舞うエピソードも描き、どうやら味は好評だったようですね。

その後、作者はこう言います。
「インスタントラーメンも工夫次第でホンモノより美味くなる。マンガも味付け次第で芸術に出来る。マンガは芸術だ」と。
インスタントの時代を受け入れながらも、芸術を追い求めるホンモノ志向だったことが窺えます。
だけど片や、赤塚先生は「マンガはインスタントメディアだ。その時代に面白可笑しく受ければいい」と言います。実は、その後直ぐに週刊マンガ誌にて「おそ松くん」でブレイクした赤塚先生。石森より先にヒットを飛ばしたのは、インスタント時代に抗わずに受け入れたからに違いないでしょう。ただ、現在日本のラーメンは世界から注目される食になっています。その後、石森作品を始め、日本のマンガが世界から注目されるようになったのは、ホンモノ志向の作品を皆が創り出しからだと、 僕は信じて疑いません。

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