「石森章太郎読切劇場 第3回 海の部屋」

1969年から70年まで、プレイコミックで掲載された読切作品集。 大人の雑誌なわけですから、当然のことながら、大人向けの題材のストーリーが多いのは無理もありません。 さすがに小学校では無かったですが、中学くらいかなぁ。 僕も思春期で、そりゃあね、オッパイが出ている萬画があったら、こっそり見ちゃいますよ(笑) そんな時分に読んだ記憶はありますが、もう女体の裸ばかりに目を奪われて(笑)、ストーリーもへったくれもありません。
この度、こういう機会を頂いたおかげで、改めて作品に触れることになりましたが、読後、不思議な感覚に陥りまして、 シュールだったり、哲学的で不条理であったり、映画で例えるなら、ハリウッド映画ではなく、ヨーロッパやアート系作品の肌触りを感じます。 エンターティメントとは言い切れませんが、前衛的な作品を好まれる方々にとっては、こんな傑作集はないでしょう。
その読切劇場の第一作は、「海の部屋」。浪人生の真夏のアパートに突然美女が訪ねてくる物語。 トキワ壮から結婚した後もアパート暮らしが続いた作者にしか書けない、オープニング。 クーラーもない、真夏の蒸し暑い部屋が、読んでいるだけでも伝わってきます。 「暑い」という台詞一つなく、太陽が照りつけるアパートの外観から、動かぬ風鈴の描写に、風もないことを表現し、 ただただ汗まみれで天井を見つめる主人公の男、その表情だけで、どんな状況か一目瞭然です。流石ですね。

突然美女が訪ねてくるのですが、物言わぬ女性に、不条理作品だと理解しながら、引き込まれていきました。 暑さのため幻覚を見ているのかと思いながら、その女性が母に見えたり、元彼女か初恋の人か現在の恋人か、そんな訳アリの女性にも見えたりします。 その女性と肉体関係を持つのですが、事が済んだ後も、貝殻の灰皿に煙草をもみ消す度に感じる女性を見て、その貝や海を連想させる女だと気づかされます。 その貝から海水が吹き出し、部屋が海になり、ラストは海岸沿いに、打ち上げられた、白髪の老人にも見える赤子の絵で終わります。 その腕には、男の腕時計が巻かれているので、その主人公だと理解出来ます。
結論を出さず、読者に投げて好きに考えてもらう、感じてもらう作風で、まるで、「 2001年宇宙の旅」のラストのスターチャイルドのようなシュールさです。 こういう作品は理屈を追ってはいけません。絵画を観るように、好きに感じるものです。やはり大人の雑誌でしか掲載出来ませんね。

僕が見ていた石ノ森章太郎 作品ページ