「八百八町表裏 化粧師 後編」

今までにない時代劇を描こうとして始まった、、、と勝手に推測するこの「化粧師」。 設定の新しさを始めとして、この作品には、多くの試みを感じることが出来ます。
まず主人公のデザインですが、丁髷ではありません。残バラでもなく、セミロングヘア ―です。 この作品を描いた時代より、21世紀の現代の方が、オシャレに感じるような無造作ヘアー。いつも思うのですが、先見の妙がありますね。 それでも顔に印象を与えるように、剛毛の眉毛が、二手に分かれて、跳ねあがっているのです。
例えば、「サイボーグ 009」の009や002のヘアースタイルだって、萬画だから成り立つし、あの髪型の強烈な印象があるから、 その人物が色濃く記憶に留まるのだと思います。それを考えると、化粧師の小三馬の顔は、この眉毛のインパクトでしょうね。 そのうえ、よーく見てみると、右眉毛の、二股の間に黒子があるのです。 色気を出すなら、顎か目尻の下とか、置く場所はあるかと思うのですが、この眉毛に黒子というのが、作者の他人とは違うセンスを感じます。

それと、作品を読み進めていくと、日本語のルビに片仮名の和製英語を多用していることも、今までの時代劇萬画ではお目にかかれない新しい試みだと思います。 自分の中で記憶が定かではないのですが、かつて作者はこう語っておりました。 「佐武と市捕物控」では、意図的に江戸や建造物、人物などを遠くからの目線で描く、俯瞰図を多用してるけど、この「化粧師」か「さんだらぼっち」か定かでは ないのですが、このどちらかの作品では、逆に人間目線の平面的な絵やアップの構図を意識して多用している、と。
その言葉も思い出しながら読みましたが、多分その試みは、この「化粧師」だと思いますね。 江戸の世界というより、人間を描こうとしている意図がはっきり見えます。 それと、明らかに現代と照らし合わそうとする気持ちも強く感じます。
化粧師のなかに「夜叉姫」という話があるのですが、売れない売春婦を、仕事場の家から、化粧まで一気に変えて、超売れっ子にする物語。 そのメイクが、ニューヨークのモデルでも通用しそうな奇抜なメイクとヘアースタイル。 着物の着せ方も、貧しさを逆手にとって、所謂、BORO Fashionに仕立て上げる。
この物語は、化粧師の初期の作品の中で、最もテーマが明確に現れた、そして、江戸時代のビジネス萬画だと称されることが理解できる、秀逸作品だと思います。

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