SHO GIRL 石ノ森章太郎の女性たち

「描く女性がすごく艶っぽい」「線がナマメカシイんだよね」「表情がキュートだったり、静かな悲しみをたたえていたり、その表現力がすごい」åなどなど。石ノ森章太郎は多彩なキャラクターを生み出したことで知られるが、こと「女性」を描いた筆致に注目するプロ漫画家やファンも多い。

そもそもキャリアを少女マンガからスタートしたことも無関係ではないだろう。『サイボーグ009』のフランソワーズをはじめ、『009ノ1』ミレーヌ、『気ンなるやつら』山田マリ子、『千の目先生』千草カオル、『さんだらぼっち』お志摩、『佐武と市捕物控』みどり、『好き! すき! 魔女先生』月ひかる、『さるとびエッちゃん』猿飛エツ子、『ワイルドキャット』ネネ…魅力的な女性キャラクターは枚挙にいとまがない。また、12年間続いた「プレイコミック」の表紙イラスト。時代性やその時々のファッションにも数多くチャレンジしている。

描き手の視点には、愛情、思慕、エロス、憧憬など、さまざまなものがあるだろう。しかし根底にあるのは若くして亡くなった最愛の姉への尽きぬ想いなのかもしれない。そんな石ノ森章太郎が描いたさまざまな女性像に改めて光を当ててみたいと思う。

石ノ森章太郎 SHO GIRLへの道

1954年のデビュー以来、石ノ森は『少女クラブ』『少女』『なかよし』『りぼん』『マーガレット』『少女フレンド』といったあらゆる少女向け雑誌から執筆依頼を受け多くの作品を描いています。やがて少年向け雑誌からの依頼が増えてくると少女向け雑誌での発表は減ってきますが、それは石ノ森が少女向けの仕事を断ったということではなく、単純に女性の作家が次々と台頭してきたことによるものでした。代わりと言うワケではないが、石ノ森は1964年頃から『明星』『平凡』という当時の二大芸能雑誌から依頼されて作品を発表するようになります。若干、読者の対象年齢層が上がったと想定したのか、この二誌に掲載された作品はかつての少女向けよりも少し上の、ティーン向けとして描かれていきました。 具体的にティーン向けにするにあたって石ノ森が取り入れた手法は、いわゆる〝大人漫画〟のタッチでした。青年向けマンガや劇画が確立される以前、ざっくり言うと、マンガは手塚治虫に代表される子ども向けストーリーマンガと、新聞や小説誌などに掲載される大人向け風刺マンガに大きく分けられていきました。石ノ森は早い時期から様々なタッチで絵を描いていて、媒体や読者層に応じて絵柄やペンタッチを描き分ける事が出来ました。 1965年から68年にかけて『平凡』で長期連載された「気ンなるやつら」は、大人漫画に近いタッチで描かれた青春コメディです。屋根を伝って行き来できる二人の男女高校生を中心に日々のバタバタが描かれますが、掲載誌を意識してか、主人公のマリッペは毎回様々なファッションを披露しています。アイコン的に同じような服を着てしか出てこない子ども向けマンガとはそこが大きく違うところです。マリッペのオシャレな格好を毎回楽しみにしていた読者は少なくなかったハズだと思います。
また、青年向け雑誌が次々と創刊されるようになると、必ずと言っていいほど石ノ森に執筆依頼が来ました。1967年には『漫画アクション』で「009ノ1」を、1968年には『ビッグコミック』で「佐武と市捕物控」、『プレイコミック』で「ワイルドキャット」を描き、『ヤングコミック』『週刊漫画サンデー』 『プレイボーイ』『女性セブン』『ティーンルック』といった雑誌からの仕事を受けて、劇画タッチを積極的に取り入れた作品を生んでいきました。 そんな中、『平凡パンチデラックス』『平凡パンチ』に1968年連載された「ガイ・パンチ&アン・ドール」「ガイ・パンチ シリーズ」は、やはり大人漫画に近いタッチで描かれた作品で、ここでの大人漫画風タッチは洒脱さを出すために選択されたように見受けられます。シンプルな線でアダルトでエロティックな雰囲気を表現することに成功しており、これが『プレイコミック』の表紙を飾った一連の女性画シリーズにもつながっていきます。 SHOW GIRLSと題された、石ノ森章太郎による女性画シリーズを今回の特集で初めて見た方もいると思いますが、そこに至るまでにも石ノ森は魅力的な女性を様々な形で描いていたことを紹介したくてこの二作品を取り上げてみました。電子書籍で購入できるので、気になったらぜひ読んでみていただきたいです。
『月刊平凡』(平凡出版)1965年1月号~1968年6月号 隣同士で屋根伝いに部屋を行き来する六村6兵衛とマリッペ、そこにカミソリ、リス、ゴリラを加えた仲良し5人組高校生が様々な事件を起こしたり巻き込まれたりする青春シチュエーション・コメディ。6兵衛とマリッペの恋の行方がほのかに描かれているのがいい。当時、芸能誌にマンガが連載されるというのは非常に珍しいことでした。
『パンチデラックス』(平凡出版)1968年5月号~11月号 『平凡パンチ』(平凡出版)1968年5月27日号~1969年2月24日号 メガロポリスTOKYOを舞台にした、探偵のガイ・パンチとアンドロイド助手のアン・ドールの物語。ほとんど仕事がないガイ・パンチは、時間をもてあますとすぐにアン・ドールをベッドに連れ込む…。アダルトでサイケデリックな空気が漂い、60年代の雰囲気とハードボイルドとSFアクションが詰め込まれた傑作。メガロポリスの描写や飛行艇、3Dテレビ(!)といったギミックなども魅力です。