<社会>

もうヒーローの時代じゃない

僕の作品はすべてキャラクターありきだった。サイボーグであり仮面ライダーであり佐武と市であり、「マンガ・イズ・キャラクター」だと考えていたわけだ。

ところがあるときふっと思ったのだ。

「ああ、新しい方法論が必要だな」

ずっとキャラクターオンリーでストーリーを作ってきたけれども、ここでキャラクターのまったく出ないやつを描いてみよう。それが発想の原点だった。
(中略)
同じホテルの話でも、今までの時代だったら、誰か強烈なキャラクターが外国に負けない素晴らしい国際ホテルをつくろうと頑張るような話が読まれたと思う。そうではなくて、プラトンという文化を、ホテルマン一人ひとりの問題として発展させていくというこのストーリーが、これだけ長く読まれているのは、何らかの共感がたくさんの人の中に存在しているからじゃないだろうか。つまり、もうヒーローの時代じゃないのだ。(※1)

主人公を設定しない、あえて言えばホテルが主人公という斬新なマンガ(ドラマ版では東堂マネージャーが便宜的にメインキャラクターになったが)として、10年以上連載が続いた人気作品『HOTEL』。数多くのヒーローを描いてきたからこそ至った境地は、今の時代の写し鏡かもしれない。

<文化>

101匹目の猿

何か今の世の中に対する違和感をもとに、それじゃあ次はどんな森がいいんだろうと考えはじめている人たちというのも必ずいるはずなのだ。

今はそれぞれがバラバラに存在しているとしても、同じような考え方の人が10人中3人ぐらいの割合で出てくると、世の中全体が何となくまとまっていくような気がする。
(中略)
猿の集団の中である行動様式が自然発生的に起こったとき、それが一〇一匹目まで伝わるとなぜか海を越えた地域でも同様の行動をする猿が出るという。そういう101匹目の猿のようなことが、今までとはケタ違いの速度と距離で実現できるわけだ。

ここに今までとはまったく違う新しい時代への予兆を感じている。(※1)

好奇心旺盛だった石ノ森は、晩年まで世の中の動きに敏感だった。中でも新しいネットワーク(インターネット)の出現には大きな可能性を感じていた。もしいま存命だったら、秒進分歩ともいえるこの状況をどう思ったことだろう。

※1=不肖の息子から不肖の息子たちへ 絆/NTT出版 鳥影社
※2=学習研究社「高1コース」1979年
※3=「風のように」