終戦間近。三歳下の弟が死んだ。食料事情も悪く、良薬も乏しかった。その為のあっけない死だった。息をひきとる二、三日前、床から起き出した弟が家の中を走り回った。もう良くなったよ。ローソクの火は、燃え尽きる直前に一際明るく輝く。ある種の不思議さと共に、今でも時折、その駆け回る弟の姿が、脳裏を過ぎる。まだ、たったの四歳だった。中学生の時、祖母が死んだ。早くに連れ合いを失くしたせいか気が強く、私の母とはよく、例の“嫁姑のいさかい”を起こしていたのだが、長の患い(癌だった)の世話は、その母が一切していた。子ども心にも感概は複雑であった。死期が迫ると、床の周辺には“死の匂い”がたちこめた。