龍神沼

龍神沼のストーリー

 山間にある小さな村は、龍神祭と呼ばれる夏祭りの準備に活気を呈していた。龍神祭を見るために、都会の少年・研一は村に住む親戚の家を訪れた。一年前訪れた際、龍神祭を見逃したことを残念に思い、再度訪れたのだった。

 滞在先には、研一より少し年若い、ユミが待っていた。ユミに案内され、準備中の祭りの開催場所を見に行く。神社の近くにある沼で白い着物の少女を見かける。ユミによれば村にそんな少女はいないという。その夜、火の玉が落ちて、二軒の家が焼けた。神主によれば龍神さまのお告げに従わないためのたたりだという。不審に思う研一。火事現場でまたも白い着物の少女を見かけた。次の日、沼にスケッチに出かけた研一は少女と出会い、話そうと近づくが、林の木立の中に溶け込むように姿を消してしまう。少女への思いが募っていく。

 祭りの当日、着飾ったユミにも気が付かない研一に、ユミはすねてしまった。なだめて出かけた研一だが、祭りの会場で見かけた少女を追い、ユミとはぐれてしまう。林の中で少女の姿を追い求めるが、力尽きて寝込んでしまう。目覚めた研一は沼の近くではぐれたユミを見つけるが、ユミは泣いて拒絶する。そのそばを村長と神主が、悪巧みの成功を言い募りながら通っていく。悪巧みを聞かれたために、研一とユミを亡き者にしようとする村長。そのとき、白い着物の少女が現れ、龍神の名を汚したと村長に告げる。青空が一転、雷雨となる中、命をもって罪をあがなえと村長に迫る少女。しかし、研一のひとことが少女を押しとどめる。「き きみが 人を……殺すなんて だめだ やめて…… やめてくれ」。少女は龍神の姿を現し、天に昇って行った。

先生のコメント「龍神沼・自画自賛

――読んで字の如く、自分で自分の作品を褒めることを“自画自賛”という。旧作を再発刊する。しかも、その旧作について語るのは、幾ら遠慮がちに謙虚に、であっても、結局はどこかで自慢になってしまうものだ。ならば最初(ハナ)から褒めてしまえ、と。人は、他人にであれ自分にであれ、けなされるよりは賞賛されたほうが、ウレシイ。

――「龍神沼」の原型は、高校時代に描いた“落書ノート”のキャラクターメモにすでにある。どうやら長編の構想だったらしく、本誌には登場しないキャラクターも多い。村出身の自衛隊員など描いてあるところをみると、どうやら社会問題(当時の)を物語に盛り込もうと目論んでいたようだ。

――どんな長編作品になったのか、見てみたい気もするが(四十年もムカシの作品となると、作者も含めて、もう“別人”なのである。だからこそ図々しくも、自画自賛が出来る訳…である)、下手をすれば冗漫になって、本編ほどの“完成度”は、得られていなかったかもしれない。

その証拠のような事例がある。実は、本編に先立ち、『少女』に同じ話「龍神沼の少女」を、十ページ前後のダイジェスト版で発表したことがあったが、見事に失敗した。要するに本編ぐらいのページ数が適量、ということなのだろうと思う。

――そして、発表した時期もまた、ちょうど、のタイミングだった。田舎の生気都会への憧憬……など等が、自然のままの感性で作品に生かすことが出来た年齢だった、からだ。

“青春の一作”と評しておきたい。(翔泳社「龍神沼」1995年刊より)

こぼれ話

 「マンガ家入門」にストーリーの作り方、構成のしかた、構図のとりかたや、コマの使い方などのサンプルとして細かく解説しています。ぜひ、そちらも読んでみてください。

龍神沼のギャラリー

龍神沼の登場人物

研一

都会から田舎の親戚の家に遊びに来た少年

ユミ

研一に淡い恋心をいだく、親戚の少女

白い着物の少女(龍神)

沼のほとりで研一と出会い、惹かれあう少女。本当は沼の主の龍神